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最高裁判所第三小法廷 昭和28年(あ)2473号 判決 1953年9月01日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人本人の上告趣意(後記)について。

所論のきわめて詳細に述べるところは、被告人は逮捕されて以来警察においても検察庁においても、間断なく電波拷問により迫害強制されたのであるから、本件公訴も原審判決も憲法三六条三八条に違反するというのであるが、記録を具さに調べて見ても、所論のような電波拷問又は自白強要の事実は認められない。従って所論違憲の主張は前提たる事実を欠くことに帰し、適法な上告理由にあたらない。

弁護人布施辰治の上告趣意(後記)第一点について。

勾留中の被告人につき刑訴一六七条により鑑定留置状が発せられ、その執行により被告人を出監せしめこれを他の個所例えば病院に移す場合は、既存の勾留の効力は消滅することなく当然その執行を停止されるものと解するを相当とする。従って所論が鑑定留置状の執行により既存の勾留は当然効力を失うという独自の見解に基き、被告人に対する勾留が憲法三四条同三一条に違反するという主張は前提を欠くことに帰し、論旨は適法な上告理由と認められない。

同第二点について。

所論は原判決が憲法三一条に違反するというのであるが、記録を精査してみても、被告人の精神状態が当時心神喪失の状態にあったと認むべきなんらの証拠がなく、却って第一審がその判決の理由において、被告人が犯行当時心神耗弱の状態にあった事実を認定する証拠として適法に採用した医師後藤彰夫作成の鑑定書の記載と被告人の第一審公判廷における供述内容及び被告人本人の作成にかかる控訴趣意書の内容等に徴すれば、原審における審理の際、被告人の精神状態が正常な状態を逸脱していたことが認められるけれども、その程度は未だ心神喪失の程度に達していなかったことが明瞭であるから、原審が公判手続を停止しなかったからといってなんら刑訴三一四条一項に反するところはない。従って論旨はこの点においてその主張の前提を欠くことに帰し、適法な上告理由とは認められない。

その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)

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